ほんとうのスポーツの社会的価値を考える
新 連 載
1 スポーツドクター 辻 秀一
 1月号から新しい連載企画「ほんとうのスポーツの社会的価値を考える」をスタートします。書いていただくのは、スポーツの社会的価値の創造に取り組むため、新しい発想のスポーツクラブ「エミネスポーツワールド」を東京で主宰する辻秀一さんです。12月まで全12回の予定です。ご期待ください。
まったく新しい理念共有型というスポーツクラブ
「エミネクロス・スポーツワールド」
 昨今、地域総合型スポーツクラブという言葉をよく耳にします。学校の部活や企業スポーツだけの時代ではなくなりつつあり、新しくヨーロッパのように地域に根ざした文化としてのスポーツの場づくりです。TOTOの助成金などがこれに使われているようです。
 一方、スポーツドクターのわたしは東京都港区を中心に全く新しい理念共有型スポーツクラブメエミネスポーツワールドモなるものを構築中です。このスポーツワールドは、スポーツのもつほんとうの社会的価値を全員が理解し実際にその良さを創造し、また享受する人たちの集まりなので、地域は特に限定していません。
 まず、子どもと親の教育を主な目的とした「チームエミネスポーツ塾バスケ」と女の子たちのチアリーディングの「Eminettes」があります。ここには小学校1年生から中学校3年生までの子ども達約80人がおり、スポーツを通じた「生きる力」の獲得を大きなテーマにさまざまな活動をしています。中学生までに「生きる力」を育てるためには対外試合は必要ないと考え、試合で勝つためではなく1人ひとりが自己向上を動機づけに一生懸命に取り組むようなさまざまなプログラムが用意されています。
 次に子ども達の模範となり社会のロールモデルとなることが「ライフスキル」(生きる力のようなものでスポーツ心理学で大切にしているスポーツの価値の1つ、今後詳しく説明していきます)を通じて競技力の向上にもなるということを結果で示していくトップのバスケチーム「エクセレンス」(Excellence)です。
 勝つことを目標ではなく、我々の理念をより多くの人たちに伝えるために勝つ事を手段に考えたチームです。毎年トライアウトを受けて競技力とライフスキルをチェックされて入ってくる選手たちです。元全日本の選手や日本に帰化した外国人、実業団で活躍していた選手、大学では勉強するために体育会に入らず将来は人工知能をつくりたいと国立大学に在籍する選手、子ども達のコーチをしながら選手も行っている選手、大学体育会でやった後、大手の電気会社に勤める研究者の選手、パイロットを目指している選手、将来トレーナーになるために鍼灸マッサージの専門学校に通っている選手、テレビ局に勤めながら理念に賛同し参加している選手、ストリートバスケの普及事業で全国をまわっている選手など多彩な選手たちです。
 コーチは、日本が大好きな理念に賛同してくれているアメリカ人です。2003年度は天皇杯東京都予選では優勝(V2)、関東大会の決勝で惜しくも敗れ準優勝。あと一歩のところで、天皇杯出場を逃しました。次ぎにあるのが障害者の車椅子バスケットボールチーム「No Excuse」。障害を言い訳(Excuse)にしないというチーム理念をもったチームです。
 さまざまな理由で障害を持った選手達が、リハビリではなくスポーツとして車椅子バスケットボールを捉えたからこそ、わたしの提示する理念に賛同し、頑張っています。2003年秋に行われた日本選抜大会で優勝し2004年5月の全日本総理大臣杯の出場権をすでに獲得。エクセレンスとNoExcuseは1週間に1回合同練習を行っています。
 4つめのチームは、エミネクラブといって、日本版ストリートバスケの形です。日本はバスケットボールを行うとなると部活か体育会かクラブに所属しなければなりません。しかも主体は対外試合ばかりです。そこで誰でも参加でき楽しめるコミュニケーションを重視したまったくのバリアフリーのバスケクラブがこれです。
 現在約200名が登録されていて、自由にその時間に集まりバスケットボールそのものを楽しんでいくというものです。さらに、耳の不自由な選手たちで結成している「Rough」というバスケットボールチーム。耳の不自由な選手も学生時代には練習する場があるのですが、社会に出ると極端になくなるため、バリアフリーなスポーツワールドに参加してきたのです。これの仲間が年に1度は合同キャンプで時間を共有します。相互のコミュニケーションやさまざまな体験をスポーツを通じて行うのです。
 現在立ち上げ中のスポーツワールドの仲間として、日本初の高校生バスケットボールクラブチーム「OnlyOne」とチアリーディングの大人の女性たちによる「Livelies」です。いずれにせよ、理念を共有する人たちの輪を広げ、スポーツの社会的価値の創造と享受をさらに広めて行きたいと考えています。
 これからこのスポーツワールを支える理念とは何かについて、スポーツ心理学とスポーツ医学の立場からお話していきますのでお楽しみに。

連載12回の各テーマ(予定)は次の通りです。
1
理念共有型スポーツワールド
2
スポーツの4つの価値
3
スポーツをプレイしよう
4
スポーツはライフスキルを育む
5
ライフスキルが財産
6
読むスポーツもある
7
障害者スポーツの可能性
8
自分らしさと心のちから(セルフイメージ)
9
右脳でセルフコンセプトを打ち破る
10
すべてに活かせるコーチ力
11
コーチ力が人を動かす
12
チームワークが秘訣

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