ほんとうのスポーツの社会的価値を考える
新 連 載
5. スポーツドクター 辻 秀一
安定した心のコンディションを
保てる能力こそが「ライフスキル」
 欧米では、スポーツは誰もが楽しむことが出来て、その人の人間性を豊かにし、その人の人生を実りあるものとしてくれるものとして、古くから非常に高い文化的価値を持ち続けてきました。スポーツにより、人は様々な生き方のスキル、つまり、「ライフスキル」を学べるとされ、一つの文化として確立されています。そして多くの選手らがこのスキルを重んじています。
 テレビの画面に映る彼らの戦う姿が爽やかに見えるのは、まさにそのせいであるとわたしは考えています。彼らはこの「ライフスキル」こそが、厳しく辛い練習に耐えること以上に、勝利をつかむ大切な力ということを知っているからです。そして、この力こそが、スポーツの世界だけではなく、人生を勝ち抜くために大切な力となることをも。
 ライフスキルがあるとなぜスポーツで勝つことにつながり、またスポーツでなぜライフスキルが学べ、そしてこのライフスキルがどうして人生にも役立つのでしょうか?ライフスキルは心のコンディションを安定して良い状態に保つための能力です。心の状態は良くなったり悪くなったりと、環境、経験、他人、自分自身の影響を受けて揺らぎます。それは、人間には「感情」があるからと考えられます。様々な環境や、経験、他人、自分自身からプラスな感情を得られると、心のコンディションは良くなります。ところが、逆にマイナスな感情が生じると心のコンディションは悪くなります。
 プラスな感情としては、例えば楽しい、嬉しい、面白い、ワクワクする、すがすがしいといったものです。また、マイナスな感情は落ち込む、イヤだな、面倒くさい、嫌いといったものです。マイナスな感情が生じた場合には、心のコンディションが悪くなり、自分自身のエネルギーが落ちてしまいますから、決して、自分らしいパフォーマンスは生まれてきません。この状態で100パーセントの自分らしさを出すのはとても難しいことです。逆に、100パーセント自分らしさを発揮している人、勝負に勝てる人、成功している人というのは、この心のコンディションが良く保たれている人、多少の揺らぎはあっても、大きくは安定している人と言えます。
 ところが、私たちの周りはつねにありとあらゆる状況が巡ってきます。環境であったり、他人であったり、経験であったり、自分自身であったりと、次から次へと何かの感情を生じる事態が存在しているわけです。スポーツや社会とは実はそういうものです。したがって、こういった状況のなかでも、つねに心のコンディションを安定させて勝利できる人、自分らしく生きられる人、成功している人もいます。心のコンディションが安定している人たちは、環境や他人、経験、自分自身といった因子に対して大きな感情の乱れがありません。もちろん、だからと言ってこういう人たちに感情がないというわけではありません。このような人たちは、自分自身の感情をうまくコントロールできる力を持っている人であり、そういった環境や経験とうまく付き合ったり、他人とうまく付き合ったりすることが出来る人なのです。
 安定した心のコンディションを持てるということは、つねにその人らしく生きていくことが出来るということです。これは人生においてとても素晴らしいことです。この安定した心のコンディションが保てる能力こそが、私の最も述べたいと考えている「ライフスキル」という能力なのです。
自分らしく生きている人というと、世界で活躍しているスポーツ選手たちが挙げられると思います。つねに泳ぐことを楽しんでいるイアン・ソープ選手、自分自身を信じている北島康介選手、大リーグに挑戦し成功しているイチロー選手や松井秀喜選手。選手によってその表現方法や、秀でているライフスキルの種類は違いますが、それぞれの選手にそれぞれの「らしさ」がとても良く感じられます。このようなライフスキルこそが、社会に出たときも、自分らしく生きていくうえでとても大切な力となるのです。
 さて、みなさんはどのようなライフスキルがスポーツに必要でスポーツでこそ学べるとお考えでしょうか?わたしの近著『風の大地 人生勝利学』(小学館)でスポーツ、特にゴルフでみられるライフスキルのすばらしさを誰でもが親しみやすく学べるように紹介しています。ぜひ、お読みください。

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