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アルバローザ ハイビスカス新聞より
葉山の海。長い髪を潮風になびかせて現れた、佐藤文机子さん。
「ライフセービングを始めたのは、大学に入ってから。プールの監視員をやっている友達から「泳げるんだったらやってみたら?」と声をかけられて。最初の2年間は、この葉山の海岸で活動していました。
そもそも『ライフセーバー』とは、ボランティア的にその活動に携わっている人のことを言うんですが、アメリカやオーストラリアでは、『ライフガード』と呼ばれ、公務員の仕事になっている。でも、日本ではみんな、ボランティア。
夏の間だけ、アルバイト的な感覚でお金を貰う。そうやって扱われているんです。ライフガードとライフセーバー、日本では、まだまだちゃんと認識されていないんです。海外ではそこに、ちゃんときっちり差があるんですけどね。」
ライフセーバーの現状を、淡々と語る佐藤さん。日々海に関わっていて感じるのは、大自然の力強さだという。
「救助はあくまで最終手段。あってはいけないこと。事故を未然に防ぐための活動が、大切な仕事なんです。ここに入っちゃいけない、という場所をきちんと作ったり、海のちょっとした知識を伝えていくとか。自然のことをたくさんの人に知ってもらうってこともそうだし、海のゴミを拾うことも、自然を汚さないためにやってるだけのことではなく、怪我の防止につながったりするから。そういう小さ甘ことを回りに広げていくことも、ライフセービングの活動だと思っています。みんなが海に対して、広い知識とマナーを持てば、事故も自然と減ります。私達の出動する回数も、少なくなってくると思うんです。でもみんな、海に対して興味がないというか、都会で生活してる人にとっては、海と自分の生活が離れたところにあり過ぎて、そういうのがわからない。夏休みに、レジャーとして行くだけの場所になってる人が、すごく多いと思うんですね、遊園地と同じ感覚で来る人が多い。海は自然の場所で、私達はその自然の恩恵をもらって生きていることにも、みんな気付いていない。だから、自然がすごく恐ろしいカを持っているってことにも、みんな気付いていない。たまに海に来るとリラックスできるとか、気持ちが和むとか、それだけ。でも、自然の良さも恐ろしさも知っている人は、絶対無茶なことはしない。自然を敬って、キチンと接する。そういう意識がただ遊びに来てる人には、あまりにもなさすぎるんじゃないかって、夏のパトロールをしていて思います。例えば、夏の現場で事故に遭遇して、全身真っ白で呼吸も心臓も止まった人が浜にあげられているのを見たとき、この人は10分前には生きていたんだなって思うと、人間って一体なんなのって思ってしまう。こんな大きな海を目の前にしたら、簡単にもう、踏みつけられるって言うか、それぐらいの存在なんだなって。人間も動物だし、自然の中で生きさせてもらっているものなんだなって。すごく感じました。」
日々自然と向き合う佐藤さん。その活動を、辛いと思うことはないんですか?
「自分がライフセービングを始めてからずっと一番で、常に勝ち続けるのが当たり前みたいな感覚に、自分も回りもなってきて。それがすこく自分に対してプレッシャーで、レースをするのが辛かったり。普段の生活でもそのことを考えるのがいやだった。ホントに、辞めたいけど辞められないという状況を引きずってた時が、辛かったですね。好きで始めたはずなのに、いつの間にか一番苦しいモノになって。私を追いかけてる人達の存在に、いつも怯えてって言うか。でも今は、ライバルがいればいるほど、自分の向上につながると思えるようになってきた。目分を目指してくれる人がいるってことは、有難いことだと思えるようになった。レースで戦うことは、勝ち負けが全てじゃないなっていうことにも気付いたから。」
 気付いたきっかけは?
「メンタルトレーニングで「勝つということを追究しろ。そこにどういう意味があるのか。勝利はお前にとって、どういうモノなのかっていうことを考えろ」って。それまでは、私にとっては『勝つ』ってことだけだったんです。結果として1番になるってだけで、でもそれは違う。勝つってことは試合の結果として与えられることであって、勝利の裏側にあるもの、その勝利を利用してどれだけのものが出来るようになるのかって言うことを、もっと考えていかなきゃいけないって言われたんです。
私にとっての勝利は、自分が一生懸命力を尽くすことで、人に感動を与えられたりとか、私のレースを見た人が勇気を奮い立たせることができたとか、そう言う風に思ってもらえるようなレースができるようになることだと思えたんです。
100%のベストを尽くせば、勝とうが負けようが、それは単な結果にしか過ぎない。でもいろんな人に、感動の思いを伝えられるのが、私にとっての「勝利」じないかなというところに行き着たら、戦うことが苦じゃないって思えるようになった。自分もそういう経験をしたからかな?人のレースを見て、ものすごく感動したんです。
オーストラリアにホームステイしてるとき、テレビの生中継でレースを見てて、すごい接戦だったんですね、最後の最まで。でも本当に諦めない。ゴールを突っ切るまで、ものすごいカで最後は倒れ込むくらい。その姿を見てすごく感動して涙が出るくらい。そして自分もそう言う風に、いろんな人にエネルギーを与えられる選手になりたいなと思ったんです。私の目指すものは一番を取り続けることではなくて、そういうことなんだと。だから、つづけてこられたんです。自分にとて勝利を取り続けることが一番だったら、たぷんもう、辞めている思う。自分が、そういう辛い思いを克服したってこともあると思うんですが、回りを見回してみると、同じような思いを抱えている人が、いっぱいいることに気付きやすくなった。自分の後輩や、そういう思いをしている人に、すこく辛くなってしまっている人に、気付いて声をかけてあげられるようになった。自分が経験したから「今この人、すこい辛いんだな」と、わかるようになった。」
厳しい競技の世界で揉まれながら、日々成長していく佐藤さん。そんな彼女が飛び込んだ、新しい世界とは?
「はい、結婚したばかりです。彼氏彼女のときは、いつになったら結婚できるのかなって思いがあったけど、今は落ち着きましたね。落ち着いてがんばれるっていう感じがあります。保険が増えたって感じ?なんて。でもそういう気持ちの安定もありますよ。こう見え
ても私、結婚願望が、強い方だったので。」
照れながら話す佐藤さん。この後、またまた意外な一面を教えてくれた。
「今は家を探していて、まだ一緒に住んでいないんです。だから食事もまだ、作ってあげていない。でも、お菓子作りは趣味です。お料理が好き。作るっていう行為も好きだし、食べてもらうのが好き!女性らしさを持っている人は、お料理しなくてもいいけど、私にはあまり女性らしいっていうか、そういうところがないから。だからお料理とかで女性らしさ、稼がないと、ね。」はにかんだ笑顔が、とても女性らしい。
 「ライフセービングもお料理も、全部好きだからやってるだけ、好きなことしかやらない。嫌いなことはやらない、だから練習は好き。辛いのを乗り越えなくちゃ達成されないことって、いっぱいありますからね。」その笑顔から、アスリートの顔がちょっとのぞいて見えた。続けてオフの話を聞いてみた。
「オフは10月の1ヵ月間だけ。トレーニングのために1年のうち1カ月から2ヵ月くらいは、オーストラリアに行きます。日本でのトレーニングは、朝早くから仲間と一緒に。帰ってから少し休んで、午後走ったりとか。でも毎週月曜日は、完全休養の日と決めています。好きなお菓子を作ったり、マッサージをしたり、食べるものにも、気を使っています。やっぱりアスリートとして重くなると、動きづらいですし、いつも動きやすくてキレてる、ベストなコンディションであるようにと思っています。」
なかなかストイックな佐藤さん。食べ物だったら何が好き?その質問に、しばし考えてから
「カレーライス!ってアレ、なんでみんな笑うんですか?そんなにヘンかな?あと魚も好き。って、もう遅いですか?カレーに収まっちゃいましたね。うーん、やっぱり私って間抜けなのかな?」
その素顔は、なかなかお茶目。
「好きなモノは海に関係すること嫌いなことは勉強とか読書とか、机に向かうことかな?」
最後にライフセービングについて語ってくれた。
「私にとって、ライフセービングは生き甲斐、死ぬまで続けたい。でも、やりたいと思っていたら、ね。」
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