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Dr.辻の掲載記事の中からメディカル知識をご紹介しております
2大スポーツ障害といえば、オーバーユースとオーバートレーニングである。スポーツは身体的負荷により新陳代謝を促し、新たな再生の機会を心身ともに生む。これが大きな魅力のひとつである。この負荷の効果を得るにはスポーツ医学で言われるところの超回復という原理が必要である。すなわち、休養という回復期間の存在があってはじめて負荷の効果が出て元を超えることができるのである。オーバーユースとは、この負荷と休養のバランスが身体的に破綻することによって起こる整形外科的な筋肉や関節の障害である。
スポーツによる力学的負荷がかかると身体には必ずといっていいほど細胞の破壊と炎症が生じる。炎症があるレベルを超えると痛みとして認識される。通常、私たちは痛みという信号がないとそれに気付かないのだが、スポーツ障害を予防しようと考えるスポーツ選手たちは痛みが出る前にこの炎症に対処している。そのひとつがスポーツ前のストレッチングである。筋肉や関節が硬ければ、それだけ無理に動かすことになるので、炎症の度合いは増す。そこで、スポーツの前には必ず自分なりに柔軟性をアップさせておくことが望ましい。スポーツの後にも行えば、炎症の起こり方がさらに少なくてすむことも明らかになっている。いまひとつの対策としてスポーツ後のアイシングがある。炎症を翌日まで持ち越さないための最も効果的方法は冷やすこと。湿布は冷えた感じだけ、アイスノンは冷えすぎ。ビニール袋に氷水を入れて氷嚢を作成し、筋肉や関節を15分〜30分冷やしてあげることが何より大切である。運動直後ほど効果があるが、最低でもその日のうちにアイシングすることが望ましい。スポーツをしてすぐにお風呂に入って温めると炎症はさらにひどくなるのでスポーツ選手は絶対にしない。以上が整形外科的なスポーツ障害、オーバーユースの予防の考え方である。
オーバートレーニングは負荷と休養のバランスがくずれ、精神的にダメージを受け、内科的な体調不良などを起こしてしまう状態をさしている。オーバートレーニングという言葉から練習量の多さだけが、原因と思われるが、目に見えない精神的ストレスの負荷により広くこの状態に陥っている子どもたちが少なくない。オーバートレーニング状態の共通現象としてスポーツ心理学で大事にしている心のエネルギーであるセルフイメージが縮小してしまっていることがある。その人やその子どもにあった取り組みが勝利の前に何よりも必要である。それがセルフイメージを大きくすることにつながる。そこで、指導者や親がスポーツをさせる際にセルフイメージを大きくするために持つべきコーチ力について述べる。
コーチ力の五原則とは、理解してあげる力、見通してあげる力、愛する力、行動する力、そして楽しませてあげる力を言う。子どもに限らずすべての人は、理解してもらえないとき、見通されないとき、愛されないとき、見せられないとき、楽しくないときに心のエネルギーは減少し、セルフイメージは縮小する。理解する姿勢には『話すより聞く』姿勢、見通す姿勢には『結果より変化』を大事にする姿勢が大切である。愛する姿勢には『期待より応援』の姿勢が重要である。スポーツ心理学においては期待はもっとも相手のセルフイメージを縮小する勝手な思考としてよいことと考えられていない。期待より応援の姿勢で指導された子どもや選手のセルフイメージは確実に大きい。行動する姿勢には『聴かせるより見せる』の姿勢で指導における人生哲学やモットーの大事さが強調されている。
最後に楽しませる姿勢では『結果より過程』を重んじ、一生懸命やることへの評価を結果評価よりも大事にする姿勢が子どもを伸ばすことになる。このようなコーチ力のある大人や親、指導者によってスポーツの環境が作られるとき、オーバートレーニングのような精神的なスポーツ障害など起こらないのである。このようなコーチ力のあるスポーツ指導が広く行われることを望む。そのことがスポーツの社会的価値をより多くの人たちが享受できることになるだろう。 |
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